ほくろ除去

ほくろ(黒子)とは

ほくろ(黒子)とは、メラニン色素をつくる細胞(メラノサイト)が変化した母斑細胞という良性の細胞の塊です。 医学的には色素性母斑(母斑細胞母斑)と呼ばれ、大小さまざまな大きさで体のどこにでも生じる可能性があります。
生まれつきあるほくろもあれば、成長の過程で現れるものもあり、年齢とともに大きくなったり盛り上がったりする場合もあります。色は薄い茶色から黒色まで様々です。

一般的にほくろは良性で健康上問題ないため、必ずしも除去する必要はありません。 しかし美容上の理由で気になる場合や、ほくろが衣服に引っかかって出血するなど実生活で支障がある場合には、除去を検討することがあります。 一方で、見た目はほくろに見えても基底細胞がんや脂漏性角化症、 悪性黒色腫(メラノーマ)など皮膚がんの可能性もあります。
特に悪性黒色腫は初期はほくろと区別が難しく、自己判断せず皮膚科専門医で本当にほくろかどうか診断を受けることが大切です。

悪性の可能性が疑われるほくろの特徴

  • 形が左右非対称でいびつである
  • ほくろの輪郭がギザギザして不鮮明である
  • 色にむらがあり一様ではない
  • 直径が6mm以上ある
  • 大きさ・色・形に最近変化がみられる

上記に当てはまる変化がある場合や不安がある場合は、早めに皮膚科で相談しましょう。 ほくろだと思っていたものが万一皮膚がんであれば、早期発見と適切な治療が必要です。

ほくろ除去の方法(レーザー治療と手術)

美容目的で行われるほくろ除去には、主にレーザー照射による方法と、メスなどで切り取る外科的切除手術の2種類があります。 日本皮膚科学会によれば、「ホクロを取り除くためには基本的に手術による切除しかない」とされてきましたが、 近年は傷跡をほとんど残さないレーザー治療も発達しています。 それぞれの方法にメリット・デメリットがあるため、医師と相談して適切な方法を選ぶことが重要です。

外科的切除(手術による除去)

メスや特殊な器具を使って物理的にほくろを切り取る方法です。 具体的には、直径数mmの円筒状の器具でくり抜くパンチ切除、メスで皮膚ごと切り取る切開手術、 あるいは電気メスや炭酸ガスレーザーで組織を焼灼する方法があります。
手術療法は1回の処置で完全に除去できるのが利点ですが、術後に傷跡が残る欠点があります。 切除後は感染予防のためしばらく患部を濡らせない期間が必要になり、抜糸まで数日~1週間程度かかります。
特に鼻と上唇の間(いわゆる人中)のほくろをパンチ切除や焼灼で除去するとケロイド状の傷跡が残りやすいことが知られています。 とはいえ、小さなほくろであればシワに沿って切除することで傷跡が目立たなくなる場合もあります。

手術による除去では局所麻酔の注射を行ってからほくろを切除するため、施術中の痛みはほとんどありません (麻酔注射時にチクッとした痛みはありますが、麻酔が効けば痛みを感じずに施術できます)。
ほくろを切り取った後は医師が丁寧に縫合し、1〜2週間ほどで抜糸します。 手術跡は当初赤みを帯びますが、抜糸後3~6か月ほどかけて徐々に落ち着いていきます。
手術でほくろを完全に取り除けば、その部分から再びほくろが生じる心配はほぼなく、 将来的な悪性化への不安も軽減できるメリットがあります。 医師から悪性の可能性が示唆されたほくろや、大きく隆起したほくろは手術による切除が選択されることが多いです。

レーザー治療(炭酸ガスレーザー・Qスイッチレーザー)

レーザーを照射してほくろの細胞を熱や光で破壊し、除去する方法です。 代表的なものに炭酸ガスレーザーとQスイッチヤグレーザーがあります。
炭酸ガスレーザーや電気メスによる治療は、浅い層でほくろ組織を焼き切る点で手術的な切除と似ています。 小さなほくろであれば炭酸ガスレーザーで短時間で除去でき、傷も小さいため顔のほくろ除去に向いている方法です。 ただし焼灼した場合も傷跡が完全に残らないわけではなく、処置後は赤みや色素沈着が一時的に現れることがあります。

一方、Qスイッチレーザーは超短パルスの特殊なレーザーで、色素を持つ細胞だけを選択的に破壊できるため傷跡がほぼ残らない画期的な方法です。 主に平らで小さめのほくろに適しており、数回に分けて照射を行うことで徐々に色素細胞を減らしていきます。 小さなほくろであれば数回の照射でほとんど目立たなくなるケースもあります。
Qスイッチレーザー照射時の痛みは輪ゴムではじかれた程度の軽い刺激で、人によっては麻酔なしでも耐えられるくらいです。 実際、多くのケースで表面麻酔や局所麻酔を使わず処置されています。
照射後は治りを早める軟膏を塗り、保護テープで覆って経過を待ちます。 ダウンタイム(回復期間)はおおよそ1週間から10日程度でかさぶたが形成され、新しい皮膚に生え変わっていきます。

レーザー治療の欠点は、一度の治療で取り切れない場合があることです。 色素を持つ細胞だけを壊すため大きなほくろでは完全除去に回数を要し、 間隔を詰めて照射しすぎると正常な皮膚の色素まで脱色してしまうリスクがあります。
特に盛り上がったほくろはQスイッチレーザーではあまり平坦にならず、効果が限定的です。 このようにレーザー治療は主に小さく平坦なほくろ向きであり、 大きなほくろや悪性疑いのほくろは最初から手術で切除した方が確実といえます。
最近では、まず炭酸ガスレーザー等で隆起部を焼灼し、 その後Qスイッチレーザーで色素を除去するといった組み合わせ治療が行われることも増えています。

ほくろ除去にかかる費用

ほくろ除去の費用は、選択する治療方法やほくろの大きさ・部位などによって異なります。 美容目的でコンプレックス解消のために行う場合は自由診療(自費治療)となり、 一方で出血や痛みを伴うなど病変の治療を目的とする場合には健康保険が適用されるケースもあります。
例えば「引っかかる」「違和感がある」「悪性が疑われる」といった所見のあるほくろは、 保険診療の対象として除去可能です。 まずは医師に症状を伝え、保険適用になるか相談してみるとよいでしょう。

自費診療となる場合、費用の目安は1個あたり約5,000円~15,000円程度とされています。 大きさによって料金設定が異なることが多く、たとえば:

  • 3mm未満で1万円前後
  • 5mm以下で1万5千円前後
  • 5mmを超えると2万円程度

クリニックによってはレーザーと手術で別料金を設定している場合もあり、 レーザー治療は比較的安価(小さいものなら数千円程度~)に、 切開手術はやや高額(1万円以上~)になる傾向があります。
なお、保険適用で除去する場合は健康保険の自己負担割合(3割負担など)のみで済みます。 ただし病理検査を行った場合はその検査料が別途かかることもあります。 具体的な費用は受診する医療機関に問い合わせて確認してください。

ほくろ除去の痛みとダウンタイム

「ほくろ除去は痛いのでは?」と不安に思う方も多いですが、実際の施術中の痛みはほとんど心配いりません。 前述の通り手術や炭酸ガスレーザーの場合は局所麻酔の注射を行います。 注射針を刺す時のチクッとした刺激と、麻酔薬が入る際のヒリヒリする痛みはありますが、 この麻酔の痛みさえ乗り越えれば施術中は痛みを感じません。
どうしても不安な場合は、事前に塗るタイプの表面麻酔クリームで注射時の痛みを和らげることも可能です。 レーザーの中でもQスイッチレーザー治療は基本的に麻酔を使いませんが、 先述のように感じる痛みは輪ゴムで弾かれた程度で一瞬なので多くの方は耐えられるレベルです。 痛みに弱い方はカウンセリング時に遠慮なく医師に相談するとよいでしょう。

ダウンタイム(施術後に普段の生活に戻るまでの期間や経過)

切除手術(縫合あり)の場合

施術後は傷口を保護するテープや絆創膏で覆い、数日後に経過をチェックして問題なければ1〜2週間後に抜糸します。 抜糸直後は傷跡に赤みがありますが、およそ3~6ヶ月かけて赤みが薄れ、傷も目立ちにくくなります。 傷跡が完全に成熟して落ち着くまで半年~1年程度かかることもあります。 術後しばらくは洗顔や入浴の際に患部を濡らさないよう指示される場合がありますが、医師の指示に従いましょう。

炭酸ガスレーザーの場合

切開せず焼灼する方法なので縫合の必要はありません。 施術当日は出血を防ぐため軟膏とテープで患部を保護します。 照射後の傷は数日で表面が乾いて薄いかさぶたになります。 術後2~3ヶ月ほど患部に赤みが出ますが、新陳代謝とともに徐々に薄れていきます。 赤みが引いたあとは肌色になじみ、遠目にはほとんどわからなくなるケースが多いです。

Qスイッチレーザーの場合

照射後は軽い炎症を防ぐため軟膏を塗って保護します。 個人差はありますが1週間~10日ほどでかさぶたが形成され、新しい皮膚に生まれ変わっていきます。 傷跡が残らない方法ではありますが、照射を複数回行った場合や肌質によっては、 薄く色素沈着(茶色っぽい跡)が一時的に生じることがあります。

なお、どの治療法でも共通して術後のケアが非常に重要です。 傷口が完全に治るまでは医師の指示通りに軟膏の塗布や保護テープの貼付を続け、 紫外線に当たらないよう十分注意してください。
特にレーザー治療後は紫外線を浴びすぎると炎症後の色素沈着が起こり、跡が残る原因になります。 日中は絆創膏やテープで遮光し、必要に応じて日焼け止めを塗るなどの対策を行いましょう。 適切なアフターケアを行えば、時間とともに治療跡は目立ちにくくなっていきます。

ほくろ除去のリスクと注意点

ほくろ除去は比較的簡単な処置とはいえ、医療行為である以上いくつかのリスクや注意点があります。 事前に知っておきたいポイントをまとめます。

傷跡が残る

前述の通り、切開手術を行った場合は避けられず瘢痕(傷跡)が残ります。 場所によってはケロイド体質でなくても傷が盛り上がりやすく、 特に鼻下(人中)のほくろを除去したケースではケロイド状の傷になる例が報告されています。
一方、レーザー治療はメスを入れないため傷跡は目立ちません。 ただしレーザーでも治療後しばらく赤みや色素沈着が残る場合があり、 完全に跡が消えるまで時間がかかる点は留意しましょう。

再発の可能性

レーザー治療ではほくろの色素細胞を破壊するものの深部の細胞までは取り切れない場合があります。 その結果、しばらく経ってから同じ場所に色素が戻り、ほくろが再発するケースもゼロではありません。
特に一度の照射で取りきれなかった大きなほくろは、時間をおいて追加照射が必要です。 再発を防ぐには医師の指示通り適切なタイミングで複数回施術を受けるか、 いっそ手術で根元から除去してしまう方法も検討されます。

感染のリスク

施術後の傷口に細菌が入ると炎症や感染症を起こす恐れがあります。 施術当日はなるべく患部を清潔に保ち、医師の許可が出るまでは入浴や洗顔で直接傷を濡らさないよう注意しましょう。 赤みや腫れが強くなったり膿が出るようならすぐに受診してください。
また、自分でほくろを針やカッターで無理に取ろうとするのは絶対にやめてください。 出血や激しい痛みを伴うだけでなく、傷が化膿して感染症を引き起こす危険があります。 結局そのようなトラブルが起これば医療機関で処置を受ける羽目になり、 かえって余計な医療費や時間がかかってしまいます。 ほくろを除去したい場合は必ず皮膚科や形成外科など専門の医師に相談して、安全に治療を受けましょう。

その他の注意点

妊娠中はホルモンバランスの影響でほくろの色や大きさが変化しやすいため、 妊婦への施術を控えるクリニックもあります。 また日焼け直後の施術は肌トラブルにつながる恐れがあるため断られる場合があります。
いずれにせよ施術前のカウンセリングで自分の体調や既往症について医師に正直に伝え、 疑問点は確認しておくことが大切です。

ほくろ除去が推奨される人

ほくろ(色素性母斑)は多くの場合良性ですが、以下のような場合には除去が推奨されることがあります。

  • 悪性の可能性がある場合:ほくろの形や色、大きさに急な変化が見られる場合や、急激に大きくなったり出血を繰り返す場合
  • 日常生活に支障がある場合:まぶたの大きなほくろで視界が遮られる、襟や服に引っかかって痛みや出血の原因になる
  • ほくろ自体がかゆみや異物感を伴う場合:除去することで症状の改善が期待できる
  • 心理的ストレスが大きい場合:見た目上気になるほくろがあることでコンプレックスを感じている
  • 形が非対称、境界が不明瞭、色がまだら、直径6mm以上、表面が盛り上がっているといった所見がある場合
  • 毎日鏡を見るたびに憂うつになるなど精神的負担が大きい場合

ほくろ除去の施術の流れ

一般的な皮膚科・形成外科におけるほくろ除去の流れを、以下に7つのステップで紹介します(炭酸ガスレーザー〈CO2レーザー〉による焼灼や外科的切除の場合の代表的な例です)。

  • 予約

    クリニックや皮膚科に電話やウェブで診察の予約をします。当日は健康保険証などを持参し、指定の時間に来院します(美容目的の場合は自由診療となります)。
  • 問診

    医師または看護師による問診が行われます。ほくろがいつ頃からあり、最近変化があったか、出血や痛みの有無など現在の悩みや症状について詳しく聞かれます。既往症やアレルギーの確認もこの段階で行われます。
  • 診断

    続いて医師がほくろの状態を詳しく診察します。視診に加えてダーモスコピー(拡大鏡)という機器を用い、ほくろが良性か悪性かをチェックします。悪性の疑いが強い場合やサイズが大きい場合は、病理検査のため切除が推奨されます。良性で除去が可能と判断されれば、治療方針に進みます。
  • 術式決定

    診察結果にもとづき、どの方法で除去するかを医師と相談して決定します。ほくろの大きさ・形状や位置、患者の希望などを考慮し、レーザーによる除去かメスを使った切除縫合かといった適切な術式を選択します。例えば小さく平らなほくろであれば傷跡が残りにくいCO2レーザー治療を提案し、大きいまたは隆起したほくろや悪性の可能性があるものは切開手術による完全除去が選択されることが一般的です。
  • 同意

    治療法が決まったら、医師から施術内容やリスク、副作用、術後の経過について説明があります。疑問点が解消したら同意書に署名し、治療に同意します。費用の説明も行われ、保険適用か自由診療かが案内されます。同意後、施術日を予約します(クリニックの予約状況によっては当日の施術も可能なことがあります)。
  • 施術

    いよいよほくろ除去の施術当日です。局所麻酔の注射を行い、麻酔が効いてから治療を始めます(麻酔注射の際にチクッとした痛みがありますが、施術中や施術後の痛みはほとんどありません)。決定した方法に従い、医師がほくろを取り除きます。レーザー治療の場合は数分程度照射して組織を焼灼し、患部を平らにならします。切除手術の場合はメスでほくろを切り取り、必要に応じて糸で丁寧に縫合します。小さなほくろであれば施術時間はレーザーで1~2分、手術でも5分程度と短時間で終了します。施術後は止血のためガーゼやテープで患部を覆います。
  • アフターケア/再診

    施術後、医師や看護師から創部のケア方法について説明を受けます。傷口を清潔に保ち、軟膏を塗って保護テープで覆う湿潤療法などが指示されることがあります。レーザー治療の場合も当日〜翌日からシャワーやメイクが可能なことが多いですが、医師の指示に従ってください。手術で縫合した場合は約1週間後に再診して抜糸を行い、傷の治り具合を確認します。その後も必要に応じて数週間〜1か月後に経過観察の予約を取り、再発や傷跡の肥厚がないかチェックします。処置後の皮膚は通常より紫外線の影響を受けやすい状態になるため、患部に日焼け止めを塗る・テープで保護するなど十分なUV対策が重要です。また、傷跡部分のかさぶたを無理に剥がさないよう注意することも大切です。赤みや傷跡は時間とともに徐々に薄れていき、半年~1年ほどで目立ちにくくなるケースが多いとされています。もし不安な症状があれば早めに医師に相談しましょう。