GLP-1受容体作動薬の美容・痩身目的での使用と神経性やせ症発症の危険性【論文解説】志熊淳平

東京医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科学分野准教授の志熊淳平医師

当院では、この論文を参考に以下の記事を作成しています。

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目次

GLP-1受容体作動薬による美容・痩身目的の医療ダイエットについて

肥満は世界的な健康問題であり、糖代謝の異常・高血圧・脂質異常症心血管疾患運動器障害・癌など、多岐にわたる健康障害を引き起こします。

日本の肥満症診療ガイドラインでは、食事療法・運動療法・行動療法を主な治療手段としていますが、そういった治療での改善が見られない場合や健康障害が2つ以上ある場合に限り、薬物療法による医療ダイエットが行われます。

GLP-1受容体作動薬は、米国では肥満症治療薬として認可されていますが、日本では主に糖尿病治療薬として医療ダイエットに使用されています。

GLP-1受容体作動薬のメカニズム・適応外使用

GLP-1受容体作動薬の薬理学的特性

GLP-1受容体作動薬は、食欲抑制・胃排泄遅延作用・インスリン分泌促進作用を持つ糖尿病治療薬です。

GLP-1は、小腸下部のL細胞から分泌されるホルモンで、血糖値の調節に重要な役割を果たします。

そのため、GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病患者の血糖コントロールを改善し、体重減少効果ももたらします。

米国では医療ダイエットに使用する肥満症治療薬として認可されています。

GLP-1受容体作動薬の適応外使用とその問題点

日本では、「やせホルモン」としてメディアに取り上げられたことで、一般にも広く認知され、美容や痩身を目的とした医療ダイエットによる適応外使用が問題となっています。

日本糖尿病学会日本医師会は、このような使用方法に対して警鐘を鳴らしており、治療の目的から外れた使用は医の倫理にも反すると批判しています。

自由診療でGLP-1受容体作動薬を簡単に手に入れることができる現状は、適切な診察やフォローが行われないまま使用されるリスクを高めています。

症例報告 GLP-1受容体作動薬使用後の神経性やせ症発症

GLP-1受容体作動薬使用後の神経性やせ症発症 症例概要

18歳の女性が美容・痩身目的でリラグルチドを使用し、2ヶ月で体重が3kg減少しました。

しかし、使用中止後も体重減少が続き、BMIが14.7kg/m²まで低下し、最重度の神経性やせ症を発症しました。

この症例は、適切な医療ダイエットが行われないまま、自己判断でGLP-1受容体作動薬を使用した結果、深刻な健康障害を引き起こした例です。

GLP-1受容体作動薬使用後の神経性やせ症の病態とリスク

神経性やせ症は、歪んだボディーイメージによる極端な食事制限や過度の運動により、過度の体重減少を引き起こす疾患です。

若年女性に多く見られ、一度発症すると回復には長期間を要し、死亡率・自殺率が高くなることが報告されています。

特に、日本では20代女性の約20.7%がBMI18.5未満の「やせ」状態であり、神経性やせ症の「予備軍」となるリスクが高いことが懸念されています。

神経性やせ症発症の原因とGLP-1受容体作動薬の影響

神経性やせ症発症の原因

神経性やせ症の発症には、遺伝的素因、心理的・社会的ストレスなどが関与します。

特に、痩せた体を称賛する社会風潮が若年女性に対して強いプレッシャーを与えています。

発症原因は主に以下となっています。

  • 遺伝的素因:代謝異常(体重が増加しにくい素因)・精神の脆弱性(統合失調症関連・うつ病・不安症・強迫性障害)
  • 心理・社会的ストレス:孤立・いじめ・心理的混乱・不安
  • 社会的風潮:痩せた体を推奨する社会情勢・幼少期の外傷体験・未熟な対人関係スキル

神経性やせ症発症に対するGLP-1受容体作動薬の影響

GLP-1受容体作動薬が直接的に神経性やせ症を引き起こすことは考えにくいが、少しの体重減少が一時的な安堵感を生み、さらなる食事制限行為を促す可能性があります。

GLP-1受容体作動薬の使用による医療ダイエットで得られた一時的な体重減少が、病的な自己効力感を高め、過度の体重減少行動を引き起こすリスクがあると考えられます。

医療ダイエットの危険性と今後の対策

医療ダイエットの自由診療によるGLP-1受容体作動薬の使用

医療ダイエットの自由診療で診察もなく簡単にGLP-1受容体作動薬を手に入れることが可能であり、「予備軍」の神経性やせ症発症を加速させるリスクがあります。

適切な医療ダイエットが行われないまま、自己判断での使用は非常に危険です。

医師による指示に順守した上で、医療ダイエットによる治療を継続することが大切です。

医療ダイエットを行う医療者の認識と防止策

美容・痩身目的の医療ダイエットにおけるGLP-1受容体作動薬の不適切な使用には、最大限の注意が必要であり、全ての医療者がその危険性を認識することが重要です。

医療者は以下の対策を講じることで、こうしたリスクを未然に防ぐことができます。

  • 適切な診察とフォローアップの徹底
  • 患者への正しい情報提供と教育
  • 適応外使用のリスクに対する啓発活動の強化
  • 神経性やせ症の早期発見と治療の確立

GLP-1受容体作動薬の美容・痩身目的での使用と神経性やせ症発症の危険性 結論

医療ダイエットにおいて、GLP-1受容体作動薬の美容・痩身目的での適応外使用は、深刻な健康リスクを伴う問題です。

特に神経性やせ症の発症リスクを高める可能性があります。

神経性やせ症は、一度発症すると長期間にわたる治療が必要であり、死亡率や自殺率も高く、患者やその家族に重大な影響を及ぼす疾患です。

日本においては、医療ダイエットにおいてGLP-1受容体作動薬の自由診療での使用が広がっており、適切な診察やフォローアップがなされないまま使用される場合のリスクが増大しています。

医療ダイエットを求める患者には、適切な診察と治療計画を提供し、GLP-1受容体作動薬の正しい使用法を啓蒙することが不可欠です。

医療ダイエットに従事する医療者は、美容・痩身目的での適応外使用の危険性を十分に認識し、患者への教育と啓発を強化する必要があります。

また、医療ダイエットにおけるGLP-1受容体作動薬の適応外使用を防ぐための、ガイドラインや規制の整備も求められます。

今後の課題として、医療ダイエットにおけるGLP-1受容体作動薬の適正使用を促進し、神経性やせ症を含む摂食障害の予防と早期治療に取り組むことが重要です。

医療コミュニティ全体が協力し、患者の健康と安全を最優先に考えたアプローチを確立することで、医療ダイエットの健全な発展と、摂食障害のリスク軽減を図ることが求められます。

当記事の執筆者
カンナム美容外科の編集部
現役看護師
カンナム美容外科
編集部
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経歴・詳細
当記事の編集部は、国立大学の看護学部を卒業後、同大学院にて看護管理学を修了。大学病院で集中治療室(ICU)の看護師として経験を積み、重症患者のケアや急性期医療に精通しています。その後、看護師の経験を活かしてカンナム美容外科のコラム編集部に参画しています。

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